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赤ひげに泣かされるもエ〜ガね

小石川後楽園とかいう庭園に行くことになったんです。そこは昔、『赤ひげ』の小石川療養所があった場所…だと思ったんですよ。でもどうやら、わしの勘違い。小石川療養所は今の小石川植物園で…東大がある場所ですね。
というわけで、今回は『赤ひげ』なのです。

https://www.youtube.com/watch?v=3gG5NYKZ40A

娯楽作として単純におもしろさでいえば、確かに『用心棒』や『椿三十郎』などが上かもしれません。あるいは『スターウォーズ』の元となった『隠し砦の三悪人』とかね。でも、質といいますか…完成度としては『赤ひげ』のほうが上だと思うし、この映画はわしの一番好きな黒澤作品なのです。

原作は山本周五郎の「赤ひげ診療譚」。脚本は井手雅人、小国英雄、菊島隆三、そして黒澤明。ここに橋本忍が参画していないのが残念ですが、ベストの黒澤組シナリオチームでしょう。
基本的に3つの話で構成されていますが、誰がどこという分担があったのでしょうか。ご存じの人は教えてください。
美術は村木与四郎。音楽は佐藤勝。撮影が中井朝一と斎藤孝雄です。それぞれのみごとな職人技が、黒澤監督によってバランスよくひとつになっていると思います。

“死”が荘厳ならば、“生”もまた同じ。“死”の映画でありながら、実は“生”の映画です。強く、やさしく、温かく、しかもユーモアも交えて前向きのエネルギーが伝わってきます。そこが好きです。

その昔、黒澤明監督を使ったテレビCMで、「天使のように大胆に。悪魔のように細心に」というのがありました。これは黒澤映画の本質をよく表していますね。

さすがは黒澤監督の演出なのです。『赤ひげ』の静と動のメリハリがいい。光と影のコントラストがいい。モノクロ画面が美しい。エンターティメント、芸術性、テーマやメッセージ性など、それらのバランスがいい。わしは『赤ひげ』のそこが好きです。立派すぎるというか…185分がちょっと長尺かなとは思いますけどね。

わしは黒澤映画で泣くことはないのですが、この映画だけは何度観ても同じところで泣いてしまう。おとよに泣かされるのです。いえ、悲しくてではなくて、うれしくて…です。感動する。すばらしい…黒澤映画の集大成ですね。
おとよと仲良しになるのが長坊です。彼は次の『どですかでん』の主役です。のちに東宝でフランケンシュタインの役を演じたり(勘違い?)とか、『乱』ではエキストラまでしているという噂を聞きました。そうして、晩年の監督を支えていたんですね。

蘭方医学を学んだ若い医師を演じるのが加山雄三で…彼の出番の順に撮影している。映画は彼の成長をも描いているわけですが、その許嫁が「白馬のルンナ」の名曲(!?)で有名な内藤洋子です。いやぁ、実に清楚で美しい。
そして、何といっても三船敏郎の“赤ひげ”役が見事なのです。役者としても、三船敏郎の集大成でしょう。実際、この映画が最後の黒澤映画出演になりましたしね。

とにかく、まだ観たことのない人は…是非とも観てほしいものです。黒澤映画はあまり女性に人気がないような気もしますが、この映画は特に女性向きかもしれませんよ。

デビュー作からの黒澤映画全30作の観賞を登山の稜線歩きにたとえれば『赤ひげ』が最後のピークで、それからあとの作品…『どですかでん』『デルス・ウザーラ』『影武者』『乱』『八月の狂詩曲』『夢』『まあだだよ』は下山コースになるのではないでしょうか。
上高地から穂高の稜線に取りつく。最初の西穂は『姿三四郎』です。奥穂高など、雄々しい魅惑の穂高連山のピーク歩きをして…ついに槍に到達。槍ヶ岳が『赤ひげ』です。そこからは表銀座コースを下山ルートにして、穂高の山々を振り返りながら歩くのです。表銀座コースは美しい。穂高の岩峰は何度観ても…飽きることはありません。

https://www.youtube.com/watch?v=agGgFkq-uMA

ところでまったくの余談ですが、手塚先生の「B・J」は…この『赤ひげ』の影響も受けてるんじゃないかとわしは思っているんですけどね。天才は天才を知るということでしょうか。 マンガといえば、『乱』では…白土三平の「赤目」に似ているシーンがありました。
無からは何も生まれない。それぞれにいろいろと影響し合っているのかもしれませんね。

セッションするもエ〜ガね!

シンバルで頭を叩かれたような衝撃を受けた。『セッション』を観てから…頭の中でずっとそれが鳴り響いていた。それをどう書けばいいのか。
黒澤映画の『悪い奴ほどよく眠る』を観たとき、隣席の客が「魂ぬかれたぁ」とつぶやいていた。その表現でいうなら、この『セッション』は「魂ふきこまれたぁ」かもしれない。ラストセッションの場面では息することを忘れるほどだった。

https://www.youtube.com/watch?v=mZjUEIV2Ru4

舞台は名門のシャッファー音楽学校。主人公はそこに入学したジャズドラマーのアンドリュー。
アンドリューが有名指揮者のフレッシャーに出会い、狂気のスパルタ指導を受けながらも…くらいついていく。いわば、それだけの映画だろう。
でもその中に、今の世の中が…いや、わしが失ったかもしれないものがあった。世の中が甘くなりすぎているのだ。いや、わしが甘いのだ。生ぬるい。だから、衝撃を受けたのだ。

スパルタ教師がいう。最も危険な言葉が「グッドジョブ(上出来)だ」と…。陳腐なデキを認めるから世の中が甘くなるのだとばかりに…。
褒めて生徒を伸ばす教師ではない。その逆で、まるで軍隊のように生徒を罵倒する。手も出る。物も投げる。生徒を期待以上のレベルに押し上げるために…。教師は完璧主義で、本物を目指しているのだ。次のサッチモやチャーリー・パーカーを育てたいのだ。その病的なまでの執念…。

2014年のアメリカ映画。脚本・監督がデミアン・チャゼル。主人公生徒がマイルズ・テラー。そして、鬼教師をJ・K・シモンズが演じている。確か、『スパイダーマン』のときの新聞社のおエライさんですよね。

わしの頭に突き刺さるものがあった。それを探求しつつ…さらに書いてみよう。

その昔、手塚治虫先生のお手伝いをしたことがあった。そのときのことを思い出す。
手塚先生は鬼教師と違って、わしらにはどこまでも温厚だった。でも、鬼教師に負けないくらい自分には厳しかった。その情熱、本物志向の凄まじさに圧倒された。熾烈極まる現場。納得いかないからと3度も4度も描き直しをする。他の複数の仕事と同時進行なので…当然、寝る時間などない。

わしの隣席で作業する人が「あんなのを見せられたら…たまりませんよね」とつぶやいた。彼も高名なマンガ家だったと思うが、挨拶する時間すらなかった。でも、彼の気持ちはよくわかる。「手塚先生のような大天才があそこまで努力をするなら…ぼくら凡才はどうすればいいんだ」といいたかったのでしょう。

話がズレたが、ものをつくる…本物をつくるという意味では同じでしょう。
クリエーティブはかくも過酷で…すばらしい。

そういえば、高名なジャズピアニストとささやかな交流を持った時期がある。その頃はジャズというものが難しくてよくわからなかった。今回、『セッション』にここまで心動かされたのは…この頃のことも影響しているのかもしれない。

驚いたのはDVDのオマケ映像。別の主人公俳優を使ったシークェンスが収められていた。ということは…何人かの主人公役候補の俳優に演技をさせて、誰が最適かを選んだということだ。演奏場面もあったから、それぞれが猛特訓をしたのだろう。マイルズ・テラーが勝ち残ったのだ。
映画のつくり方からして狂気の本物志向。圧倒される。

『セッション』に余韻などない。余韻は自分でつくれとばかりにブツッと終わる。
人生を変えるほどの映画、わしは好きです。

https://www.youtube.com/watch?v=2HCQYufdJoQ

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