愛の中に狂気があり、狂気の中に理性がある。ニーチェだったかな。
[虫プロ]が倒産したとき、手塚先生はビッグコミックで「ばるぼら」を連載していた。休載されるのではと気になったが…そんなことはなかった。もっとも、そのときすでに手塚先生は社長を辞めていたしね。でも、マスコミは手塚治虫は終わった…みたいに報道していたなぁ。
とにかく、わしは連載中から「ばるぼら」を読んでいたし、単行本になる度に読んだ。つまり、熟読していたのだ。
手塚眞監督によって、それが映画化された。彼の映画は8ミリ時代から観ている。お父さんが紙で映画を創った人だとすれば、彼は8ミリフイルムでマンガをつくった人かも…なぁんて思っていた。アニメという意味ではなくてね。
さて、映画『ばるぼら』だが、原作を読まないで観るほうが幻想の中に墜ちていく感じを楽しめるかもしれない。そんな気がした。観てから読むをお薦めしたい。
映画の雰囲気は思っていた以上に原作と同じで、けだるく退廃的だ。よくぞここまで…と思った。もともと手塚マンガには暗い明るさがあると思うのだが、そんな原作の深層までを実写映像にしてるかもしれない。さすがにDNAでつながってるんだな。
撮影はクリストファー・ドイルで、彼の力も大きいんだろうな。音楽もよかった。
創作上の苦悩。精神的迷宮。クリエイターなら誰でも、ばるぼらのような存在を求めているのかも…ね。
観終わったときの印象は…内容は原作とほとんど同じなのに、何かが少し違った。
恋愛要素は強まっているものの…原作にあった「それでも彼の作品は残るのだ」という要素が弱くなっているせいかもいれない。わしの中では「ブラック・ジャック」の「絵が死んでいる」という話に通じると思っていたからね。
それは路上のチラシでわかる? なるほど、それだけ映画になっているということかもしれない。
とはいっても、原作を超えたかといわれれば…正直、わからない。比べられるものでもないだろうしね。でも、手塚マンガ原作の実写映画化で初めてそこまで迫ったんじゃないかな。
一般向け娯楽作とは少し違う気もするけど、父が遺した作品を継いで…眞監督はしっかりと自分の道を歩んでるんだな。
ミューズか悪魔か…不思議なばるぼら役の二階堂ふみだが、わしはデビューの『ガマの油』からの大ファンだ。誰かが感性のバケモノとかいってたなぁ。
野坂昭如や三島由紀夫がモデルかもしれない美倉洋介役は稲垣吾郎。原作が発表された年に生まれたという。『13人の刺客』『半世界』など、役者としての彼もダークで品があって好きだな。
今回の美倉はどこかロック(間久部録郎)みたいだったから、これからも手塚マンガ原作の実写に出ればいいんじゃないかなぁ。たとえば「バンパイヤ」とかね。「どろろ」や「アラバスター」も眞監督につくってもらいたい。
https://youtu.be/y2vKPj8gxkAそういえば大昔、新宿歌舞伎町に[ばるぼら]って店があった。そこのママさんもきっと…手塚マンガのファンだったんだろうなぁ。
どーでもいいことを思い出した。昔、宝塚市の[手塚治虫記念館]の展示を観ていたら、「一緒に写真撮らせてもらってもいいですか?」と声をかけられた。はぁ?というと「眞さんですよね?」とのこと…。やれやれ(笑)。